~結婚適齢期の女性に起きた悲劇とそれから~
第三話 泥沼
史作は、私の部屋にある食べ物を勝手に食べるようになっていた。
食べたことさえ言わない。
私が後で食べようとして、なくなっていることに気づく。
「なんで勝手に食べるの?」
「腹が減ったから」
それだけだった。
買い物をしても意味がないと文句を言えば、「うるさい」「面倒くさい」と怒る。
そして、ある時から手が出るようになった。
肩を殴る。脇腹を殴る。脚を蹴る。肩を強く掴んで振り回す。
史作は肉体労働をしていて力も強かった。身体には青あざが残った。
それでも史作は、自分が悪いとは考えない。
食事が用意されていないのは私が悪い。自分が勝手に食べた物の賞味期限が切れていたのも私が悪い。腹が痛くなったのも私が悪い。
何を言っても最後には、私が悪いことになる。
「……もう、それでいいよ。ごめんね」
そう言えば、その場は終わる。
いつしか私は、正しいかどうかより、早く終わらせることを選ぶようになっていた。
気づけば三年。
異常なことが、二人の間では日常になっていた。
泥沼は突然深くなるわけではない。
一歩ずつ沈んでいるうちに、いつの間にか足が抜けなくなる。



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